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東京地方裁判所 平成元年(ワ)5461号 判決 1990年7月20日

東京都中央区日本橋小舟町五番七号

原告

株式会社 アドバンス

右代表者代表取締役

浦壁伸周

右訴訟代理人弁護士

宇井正一

右輔佐人弁理士

畑泰之

長崎県佐世保市新行江町八〇〇番地

被告

株式会社 日本理工医学研究所

右代表者代表取締役

阿比留忠徳

右訴訟代理人弁護士

水田耕一

右当事者間の平成元年(ワ)第五四六一号実用新案権侵害差止請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、別紙目録記載の低周波治療器(以下「被告製品」という。)を製造販売してはならない。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有する。

実用新案登録番号 第一六七五〇〇〇号

考案の名称 低周波治療器

出願 昭和五六年四月二五日

出願公告 昭和六一年七月七日

登録 昭和六二年四月一日

2  被告は、被告製品を製造販売している。

3  被告製品は、次に述べるとおり、本件考案の技術的範囲に属する。

(一) 本件考案

(1) 本件考案の実用新案登録出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載は、本判決添付の実用新案公報(以下「本件公報」という。)の該当項記載のとおりである。

(2) 本件考案は、次の構成要件からなるものである。

A 低周波パルス発生源からの低周波パルスに応じて電気刺激信号を出力する低周波治療器であること。

B この低周波治療器が、

イ 発振回路の出力で駆動させるドライバ回路と、

ロ 該ドライバ回路の駆動により出力する昇圧トランスと、

ハ 該昇圧トランスの出力が充電されるように接続した出力コンデンサと、

ニ 該出力コンデンサに前記昇圧トランスの出力が前記低周波パルスのパルス間で充電され、かつ、その充電による電荷が前記低周波パルスの通電時間幅の間に放電されるようにスイツチングするスイツチング回路と、

ホ 前記ドライバ回路の駆動時間を規制する調整回路とを有すること。

(二) 被告製品は、次のとおり、本件考案の構成要件をすべて充足する。

(1) 被告製品は、コンピユータプログラムを内蔵する集積型信号処理回路から出力される低周波パルスに応じて電気刺激信号を出力する低周波治療器であるから、本件考案の構成要件Aを充足する。

(2)イ 被告製品は、コンピユータプログラムを内蔵する集積型信号処理回路からの出力で駆動させるドライバ回路を備えているものであるところ、集積型信号処理回路中に周波数10KHzの高周波パルス発振回路が設けられており、この回路からの出力によつてドライバ回路を駆動させているのであるから、本件考案の構成要件Bイを充足する。

ロ 被告製品は、ドライバ回路のオン信号により励磁され、その蓄積した電磁エネルギーを該ドライバ回路のオフ信号により出力コンデンサに移すコイルを備えているものである。ところで、右コイルにドライバ回路からのオン。オフ信号が入力されると、コイルがそのオン。オフ信号に従つて励磁、非励磁を繰り返し、コイル内に入力パルスの微分波形を利用した入力パルスに比べて大きな電圧、つまり、昇圧された電圧が発生し、この昇圧された電圧がコイルの出力から取り出されるのである。したがつて、コイルは、ドライバ回路からのオン・オフ信号によつて駆動し、入力パルスの電圧をより大きな電圧、すなわち、昇圧された電圧を発生させる機能を有するものであることが明らかであるから、本件考案の構成要件Bロの昇圧トランスと同じ機能を有するものである。被告製品は、本件考案の構成要件Bロを充足するものというべきである。

ハ 被告製品は、コイルの電磁エネルギーにより充電されるように接続した出力コンデンサを備えている。ところで、右のコイルの電磁エネルギーは、本件考案の昇圧トランスに該当するコイルにおいて発生せしめた昇圧された電圧にほかならない。したがつて、被告製品は、本件考案の構成要件Bハを充足する。

ニ 被告製品は、出力コンデンサにコイルの電磁エネルギーが低周波パルスのオン・オフにかかわりなく充電されるようにドライバ回路を駆動すべくプログラムされたコンピユータプログラムを有する集積型信号処理回路と、出力コンデンサの充電による電荷が低周波パルスの通電時間幅の間に放電されるようにスィツチングするスイツチング回路とを備えている。ところで、右の集積型信号処理回路の構造は、本件考案の構成要件Bニ中の「該出力コンデンサに前記昇圧トランスの出力が前記低周波パルスのパルス間で充電され」という構成を含むものであり、なお、本件考案においては、低周波パルスのパルス通電間に昇圧トランスの出力が出力コンデンサに充電されるか否かは、任意の要件である。また、被告製品の右のスイツチング回路に関する構造においては、スィッチング回路は、出力コンデンサに充電された電荷が低周波パルスの通電時間幅の間に放電されるようにスイツチングする機能を有するものであることが明らかであるから、本件考案の構成要件Bニ中の「その充電による電荷が前記低周波パルスの通電時間幅の間に放電されるようにスィツチングするスイツチンブ回路」に該当することが明らかである。したがつて、被告製品は、本件考案の構成要件Bニを充足する。

ホ 被告製品は、コンピユータプログラムを内蔵する集積型信号処理回路の前記ドライバ回路を駆動するための出力の発生を制御するプログラムに、出力コンデンサの充電状態に関する情報を提供する回路を備えているところ、右の回路は、コンデンサ回路の充電電圧を検出し、その検出結果をドライブパルス発振部に供給してドライバ回路の駆動時間を規制するものであることが明らかである。したがつて、被告製品は、本件考案の構成要件Bホを充足する。

4  よつて、原告は、被告に対し、請求の趣旨のとおりの判決を求める。

二  請求の原因に対する被告の認否及び主張

1(一)  請求の原因1、2の事実は認める。

(二)  同3(一)の事実は認め、同3(二)の事実は否認する。

2  本件考案の構成要件Bロは、「昇圧トランス」を構成要素とするものであるところ、トランスとは、鉄心と二つ又は三つ以上の巻線を持ち、かつ、それらが相互に位置を変えない装置で、一つ又は二つ以上の回路から交流電力を受け、電磁誘導作用により電圧及び電流を変成して、他の一つ又は二つ以上の回路に同一周波数の交流電力を供給するものをいうのであつて、本件考案の「昇圧トランス」にあつては、ドライバ回路のオン信号により、トランスの一次側巻線が励磁され、二次側巻線に出力が生じ、出力コンデンサの充電が行われるのである。このように、本件考案では、ドライバ回路のオン信号の間に出力コンデンサの充電が行われるのに対し、被告製品では、コイルが、ドライバ回路のオン信号により励磁され、その蓄積した電磁エネルギーをドライバ回路のオフ信号により出力コンデンサに移すものであつて、ドライバ回路の信号のオンの間は、出力コンデンサの充電を行わないのである。このように、昇圧トランスの場合には、ドライバ回路のオン信号による一次側巻線の励磁と二次側巻線の出力による出力コンデンサの充電が同時的であるのに対し、コイルの場合には、ドライバ回路のオン信号によるコイルの励磁と出力コンデンサの充電が異時的である。この点について敷えんすると、昇圧トランスを使用する本件考案の場合には、ドライバ回路のオン信号によつて昇圧トランスの一次側巻線を励磁し、かう、その二次側巻線の出力により出力コンデンサを充電している間に、電気刺激信号の出力、つまり、出力コンデンサの電荷の放電が行われると、「昇圧トランス3の出力が直接的に電気刺激信号として出力される」(本件公報二頁三欄二一ないし二二行)ことになり、そうなつては、「負荷に比較的大きな電流を供給する」(同一頁一欄二〇ないし二一行)ことになつて、電池の「消耗が著しく耐用時間が短くなる」(同一頁一欄二一行ないし二二行)ことが避けられないので、本件考案では、出力コンデンサの放電時に、ドライバ回路を駆動停止(オフ)にすることにより、電池の消耗を防ぐという手段を採用しているのである。これに対して、被告製品では、もともとドライバ回路のオン信号の間は出力コンデンサへの充電が行われないから、本件考案の採用した右の構成を必要とせず、「該出力コンデンサに前記コイルの電磁エネルギーが前記低周波パルスのオン・オフにかかわりなく充電されるようにドライバ回路を駆動すべく」構成されているのである。この点に関して、原告は、本件考案においては、低周波パルスのパルス通電間に昇圧トランスの出力が出カコンデンサに充電されるか否かは、任意の要件である旨主張するが、本件考案は、低周波パルスの通電間(出力コンデンサの放電時)に昇圧トランスの出力が出力コンデンサに充電されることによる電池の著しい消耗を防止するため、「該出力コンデンサに前記昇圧トランスの出力が前記低周波パルスのパルス間で(注・パルスの休止中に)充電され」(本件公報一頁一欄七ないし九行)る構成を採用したものであるから、原告の右主張は、成立する余地がない。したがつて、被告製品は、本件考案の構成要件Bロ、ハ、ニの構成を具備しない。

3  被告製品は、コンピユータプログラムを内蔵する集積型信号処理回路のドライバ回路を駆動するための出力の発生を制御するプログラムに、出力コンデンサの充電状態に関する情報を提供する回路を備えているが、それが本件考案の構成要件Bホのドライバ回路の駆動時間を規制する調整回路に該当しないことは、それ自体で明白であり、したがつて、被告製品は、本件考案の構成要件Bホを充足しない。

三  被告の主張に対する原告の反論

1  被告の二2の主張について

被告製品のコイルにおいて、ドライバ信号がオンとなつている場合、コイルの励磁電流がやや緩慢に増大し、この間コイル(正確にはコア)に磁束エネルギーが蓄積されるが、このオン期間では、コイルとドライバ回路との接続点電位が低くなつて出力コンデンサとの間のダイオードがオフになるので、出力コンデンサは充電されない。他方、ドライバ信号がオフになると、コイルの励磁電流が急激に減少し、コイルに蓄積された磁束エネルギーが放出されるが、このとき、フアラデイの法則により、コイルとドライバ回路との接続点電位が高くなり、右のダイオードがオンになり、出力コンデンサが充電される。この意味において、被告製品のコイルは、被告が主張するように、異時的であるといつて差支えない。これに対して、本件考案の昇圧トランスの場合も、実施例のように、一次コイルと二次コイルで構成した場合、右と同様の意味において異時的なのである。すなわち、ドライバ回路がオンになつている場合、一次コイル及び二次コイルの両方の励磁電流が緩慢に増大し、この間両コイル(正確にはコア)に磁束エネルギーが蓄積されるが、このオン期間では、二次コイルの出力端の電位が低くなつており(そのように一次コイル、二次コイルの巻線方向が定まつている。)、ダイオードはオフとなり、出力コンデンサは充電されない。他方、ドライバ回路がオフになると、一次コイル、二次コイルの励磁電流は、共に急激に激少し、磁束エネルギーの放出がされる。このとき、一次コイル、二次コイルの両端子の電位は、フアラデイの法則により高くなり、その結果、一次コイル側では、ドライバ回路がオフに維持されているので、一次コイルとの接続点電位は、電源電圧に近づくのに対し、二次コイル側では、ダイオードがオンになり、出力コンデンサが充電される。このように、本件考案の昇圧トランスを二つのコイルを有するものに構成すれば、異時的となるのである。この異時的な動作を行うためには、ダイオードが重要な作用をしており、この点は、被告製品も本件考案の実施例も同様である。右にみたとおり、二つのコイルを有するトランスにおいては、一次コイルの励磁電流も、二次コイルの励磁電流も、大きさは異なるものの、同一傾向で変化するので、一次コイル側出力端子からの電圧で出力コンデンサに充電することも、二次コイル側出力端子からの電圧で出力コンデンサを充電することも可能であり、したがつて、本件考案の昇圧トランスの場合、コイルの数を問題としていないのである。以上のとおりであつて、被告製品のコイルと本件考案の昇圧トランスとは、異質なものではないのである。

また、本件考案の構成要件Bニ中の「該出力コンデンサに前記昇圧トランスの出力が前記低周波パルスのパルス間で充電され」るという構成は、願書添付の図面中、第一図、第五図の実施例に限定されるものではない。被告製品においては、低周波パルスの通電中の充電を行つているが、この点は、本件考案の実用新案登録請求の範囲において何ら言及していないのであるから、被告製品の右の構成も、本件考案の技術的範囲に含まれるのである。

以上のとおりであるから、被告製品は、本件考案の構成要件Bロ、ハ、ニを充足するものである。

2  被告の主張二3について

本件考案の構成要件Bホのドライバ回路の駆動時間を規制する調整回路は、特定の形態のものに限定されるべきではなく、駆動時間を規制する態様のものであれば、それをすべて含むものである。したがつて、被告製品は、本件考案の構成要件Bホを充足するのである。

第三  証拠関係

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求の原因1、2の事実は、当事者間に争いがない。

二  被告製品が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて判断する。

1  請求の原因3(一)(1)の事実は争いがなく、右争いのない事実と成立に争いのない甲第一号証によれば、本件考案の構成要件は、同3(一)(2)のとおりと認められる。

2  前掲甲第一号証によれば、本件考案は、低周波パルス発生源からの低周波パルスに応じて、電気刺激信号を出力する低周波治療器に関するものであるところ、従来の治療器は、電源として用いられている小電流容量の電池が、比較的大きな電流を供給するため、その消耗が著しく、耐用時間が短くなるという欠点があつたため、前1認定の構成、すなわち、発振回路の出力で駆動させるドライバ回路と、該ドライバ回路の駆動により出力する昇圧トランスと、該昇圧トランスの出力が充電されるように接続した出力コンデンサと、該出力コンデンサに前記昇圧トランスの出力が前記低周波パルスのパルス間で充電され、かつ、その充電による電荷が前記低周波パルスの通電時間幅の間に放電されるようにスイツチングするスイツチング回路と、前記ドライバ回路の駆動時間を規制する調整回路とを有する構成により、電池からは比較的大きな電流を短時間に供給しなくともよく、しかも、調整回路によるドライブ回路の駆動規制で、無駄を極力抑え、電池の耐用時間を長くしうる低周波治療器を提供するものであることが認められる。そして、前掲甲第一号証、成立に争いのない乙第一、第二号証の各一ないし四、第三号証の一ないし五によれば、(1)トランスとは、鉄心と二つ又は三つ以上の巻線を備え、かつ、それらが相互に位置を変えない装置で、一つ又は二つ以上の回路から交流電流等一定時間ことに変動する電流を受け、電磁誘導作用により電圧及び電流を変成して、他の一つ又は二つ以上の回路に同一周波数の変動電流を供給するものであるが、(2)本件明細書においては、その実用新案登録請求の範囲及び考案の詳細な説明の項のいずれにおいても、昇圧トランスという用語が用いられており、また、実用新案登録出願の願書添付の図面においても、前(1)認定のトランスを意味する記号が記載されていることが認められ、右認定の事実によると、本件考案の構成要件Bロの「昇圧トランス」とは、電圧を高くするためのトランスであつて、その構成及び昇圧原理は、前(1)のとおりのものであると認めるのが相当である。これに対して、別紙目録の記載によれば、被告製品のコイルは、ドライバ回路のオン信号により励磁され、その蓄積した電磁エネルギーを該ドライバ回路のオフ信号により出力コンデンサに移す構造のものであつて、本件考案のトランスが、前(1)認定の構成及び昇圧原理のものであるのに対し、被告製品のコイルは、右のとおり、その構成及び昇圧原理が異なるものであることが明らかである。したがつて、被告製品のコイルは、本件考案の構成要件Bロの「昇圧トランス」には該当しない。原告は、被告製品のコイルは、ドライバ回路からのオン・オフ信号によつて駆動し、入力パルスの電圧をより大きな電圧、すなわち、昇圧された電圧を発生させる機能を有するものであることが明らかであるから、本件考案の構成要件Bロの昇圧トランスと同じ機能を有するものであつて、被告製品は、本件考案にいう昇圧トランスの要件を充足するものである旨主張するところ、前掲甲第一号証によれば、本件明細書には、本件考案の昇圧トランスは、発振回路の出力で駆動されるドライバ回路の駆動により出力するものであること、右発振回路の出力がパルスであること及び昇圧トランスの出力をコンデンサに充電するものであることが記載されていることが認められるが、右認定の事実は、本件考案の昇圧トランスが一つ又は二つ以上の回路から交流電流等一定時間ことに変動する電流を受け、電磁誘導作用により電圧及び電流を変成して、他の一つ又は二つ以上の回路に同一周波数の変動電流を供給するものであるとの前認定事実と特に矛盾するものではなく、他に本件考案の昇圧トランスが、前(1)で認定したトランスのみならず、被告製品のコイルをも含むものであると解すべき根拠となる事実を認めるに足りる証拠はない。したがつて、原告の右主張は、採用することができない。

3  次に、被告製品が本件考案の構成要件Bホの「前記ドライバ回路の駆動時間を規制する調整回路とを有すること」という構成を充足しているか否かについて判断するに、前掲甲第一号証によれば、本件考案は、ドライバ回路の駆動により出力する昇圧トランスの出力をコンデンサに充電し、また、右ドライバ回路の駆動時間を規制する調整回路とを有することにより、電池からは比較的大きな電流を短時間に供給しなくともよく、電池の消耗を極力抑え、その耐用時間を長くしうる低周波治療器を提供するものであるところ、構成要件Bホの「ドライバ回路の駆動時間を規制する調整回路」について、本件考案の第1図の実施例は、出力コンデンサ5の放電時には、調整回路7の指令により、ドライバ回路2の駆動を停止するという構成により、電池の消耗する割合を少なくしているものであること、本件考案の第3図の実施例は、第1図の実施例と同様に、出力コンデンサ5の放電時には、調整回路17の指令により、ドライバ回路の駆動を停止する構成をとり、更に、調整回路17が、カウンタ10によつて発振回路1の発振回数が予め定められた回数になつたことを検出することに発振回路1の発振を瞬時停止して、ドライバ回路2の駆動を停止する構成も付加していること、また、本件考案の第5図の実施例は、第1図の実施例と同様に、出力コンデンサ5の放電時には、調整回路27の指令により、ドライバ回路2の駆動を停止する構成をとり、更に、出力コンデンサ5の端子電圧が予め定められた設定値に達したことを調整回路27が検出したときに、調整回路27の指令により、発振回路1の発振を停止させ、又は出力停止にさせ、ドライバ回路2を駆動停止にする規制を行うとの構成も付加しているものであつて、いずれの実施例も、一定の条件のもとに、調整回路がドライバ回路の駆動を停止する構成とし、昇圧トランスの出力をコンデンサに充電するとの前記の構成と右ドライバ回路2の駆動停止規制により、電池の耐用時間を極力長くしうるようにしているものであること、また、本件明細書には、本件考案の作用効果として、「しかもドライバ回路2の駆動停止規制で無駄を極力抑え」(本件公報三頁六欄八ないし一〇行参照)というように、単に、駆動規制ではなく、駆動停止規制と明記されていることが認められ、右認定の事実によれば、本件考案の構成要件Bホの「前記ドライバ回路の駆動時間を規制する調整回路とを有する」という構成は、調整回路が、一定の条件のもとに、発振回路の発振を停止させ、ドライバ回路の駆動を停止させる構成を意味するものであると認められる。これに対して、別紙目録の記載によれば、被告製品では、出力コンデンサにコイルの電磁エネルギーが低周波パルスのオン・オフにかかわりなく充電されるようにドライバ回路を駆動すべくプログラムされたコンピユータプログラムを有する集積型信号処理回路の該ドライバ回路を駆動するための出力の発生を制御するプログラムに、出力コンデンサの充電状態に関する情報を提供する回路であることが認められる。したがつて、被告製品は、調整のための右情報を提供する回路が、一定の条件のもとに、発振回路の発振を停止させ、ドライバ回路の駆動を停止させる構成を具備していないから、本件考案の構成要件Bホの要件を充足しないものというべきである。原告は、本件考案の構成要件Bホのドライバ回路の駆動時間を規制する調整回路は、特定の形態のものに限定されるべきではなく、駆動時間を規制する態様のものであれば、それを含むものであり、したがつて、被告製品は、本件考案の構成要件Bホを充足する旨主張するが、前掲甲第一号証によれば、本件考案の構成要件Bホの構成は、前認定判断のとおりであつて、本件明細書及び願書添付の図面の記載上、被告製品の右のような回路まで本件考案の構成要件Bホの構成に含まれることを認めるに足りる技術事項の開示があるとは認めることはできず、したがつて、原告の右主張は、採用の限りでない。

三  以上によれば、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 宍戸充 裁判官 髙野輝久)

(別紙)

目録

一 商品名

ニユータツチ又はミニタツチ

二 構造

コンピユータプログラムを内蔵する集積型信号処理回路から出力される低周波パルスに応じて電気刺激信号を出力する低周波治療器において、コンピユータプログラムを内蔵する集積型信号処理回路からの出力で駆動させるドライバ回路と、該ドライバ回路のオン信号により励磁され、その蓄積した電磁エネルギーを該ドライバ回路のオフ信号により出力コンデンサに移すコイルと、該コイルの電磁エネルギーにより充電されるように接続した出力コンデンサと、該出力コンデンサに前記コイルの電磁エネルギーが前記低周波パルスのオン・オフにかかわりなく充電されるようにドライバ回路を駆動すべくプログラムされたコンピユータプログラムを有する集積型信号処理回路と、出力コンデンサの充電による電荷が前記低周波パルスの通電時間幅の間に放電されるようにスイツチングするスイツチング回路と、コンピユータプログラムを内蔵する集積型信号処理回路の前記ドライバ回路を駆動するための出力の発生を制御するプログラムに、出力コンデンサの充電状態に関する情報を提供する回路とを有する低周波治療器。

以上

<19>日本国特許庁(JP) <11>実用新案出願公告

<12>実用新案公報(Y2) 昭61-22606

<51>Int.Cl.4A 61 N 1/32 識別記号 庁内整理番号 6482-4C <24><44>公告 昭和61年(1986)7月7日

<34>考案の名称 低周波治療器

<21>実願 昭56-59228 <65>公開 昭57-173755

<22>出願 昭56(1981)4月25日 <43>昭57(1982)11月2日

<72>考案者 南雲喜代士 日野市東豊田1丁目19番2号

<71>出願人 株式会社アドバンス開発研究所 東京都中央区日本橋小舟町5番7号

審査官 土屋繁

<57>実用新案登録請求の範囲

低周波パルス発生源からの低周波パルスに応じて電気刺激信号を出力する低周波治療器に於いて、発振回路の出力で駆動させるドライバ回路と、該ドライバ回路の駆動により出力する昇圧トランスと、該昇圧トランスの出力が充電されるように接続した出力コンデンサと、該出力コンデンサに前記昇圧トランスの出力が前記低周波パルスのパルス間で充電され且つその充電による電荷が前記低周波パルスの通電時間幅の間に放電されるようにスイツテングするスイツチング回路と、前記ドライバ回路の駆動時間を規制する調整回路とを有することを特微とする低周波治療器.

考案の詳細な説明

本考案は、低周波パルス発生源からの低周波パルスに応じて電気刺激信号を出力する低周波治療器に関するものである.

一般に小型の低周波治療器は、電源として乾電池等の小電流容量の電池を用いているが、従来、その電池の特有の性質即ち、負荷に比較的大きな電流を供給すると消耗が著しく耐用時間が短くなるという性質を考慮せずに治療器本体を駆動する構成のものである為、電池の耐用時間を短くしていた.

本考案は電池の耐用時間を長くし得る構成の低周波治療器を提供することを目的とする。以下図面に基づいて実施例を詳細に説明する.

第1図は本案の一実施例の要部を表わす回路図であり、1は発振回路、2はトランジスタQ1を用いたドライバ回路、3は昇圧トランス、4はダイオード、5は出力コンデンサ、6はトランジスタQ2を用いたスイツチング回路、7は調整回路、8は入力端子、9は出力端子である.

入力端子8に低周波パルス発生源(図示せず)からの低周波パルスが加わると、そのパルスの立上りでスイツチング回路6はオンとなる.その際、出力端子9間に人体負荷(図示せず)が接続されていると、出力コンデンサ5の充電電荷の放電開始となり、人体負荷に電気刺激信号が加わる.スイツチング回路6が低周波パルスの立下りでオフしたとき、同時に調整回路7の指令で発振回路1に例えば数KHz~数百KHzの発振周波数の出力が生じる.この出力がドライバ回路2に加わると、ドライバ回路2の駆動により昇圧トランス3に電源電圧Vccが印加されて、その1次側が励磁され、その2次側に出力が生じる.そしてその昇圧トランス3の出力がダイオード4を介して出力コンデンサ5に充電される.なお、必要に応じて昇圧トランス3とダイオード4との間にインダクタンス素子を挿入することもできる.

このようにして出力コンデンサ5が充電された後、スイツチング回路6が上記のようにオンとなるので、出端端子9間の人体負荷にパルス状の電気刺激信号を連続的に加えることができる.また、第1図の回路構成の場合、電源電圧Vccを変化させて、放電前に於ける出力コンデンサ5の端子電圧を設定することができる.換言すれば、出力コンデンサ5の端子電圧は電源電圧Vccの変化に対応した大きさとなる.

上述した第1図の各部分の波形の概要をタイムチヤートで示すと、第2図a~fの通りとなり、第2図aは時間t-電圧Vinで表わした低周波パルスの波形、第2図bは時間t-電圧VLordで表わした電気刺激信号の波形、第2図cは時間t-電圧Vcで表わした出力コンデンサの充放電特性曲線、第2図dは時間t-電圧Vcontで表わした調整回路の指令信号の波形、第2図eは時間t-電圧Vcで表わした発振回路の出力波形、第2図fは時間t-電流iで表わした昇圧トランスへ供給する電流の波形である.

前述の如く、スイツチング回路6がオフの時間中に昇圧トランス3の出力を出力コンデンサ5に充電した後、スイツチング回路6がオンとなつたとき、出力コンデンサ5の充電電荷を放電するので、電源電圧Vccを加える端子に接続された電池(図示せず)からは、短時間に比較的大きな電流即ち、第2図fの場合の電流1よりも大きな電流を昇圧トランス3に供給しなくてもよいものである.換言すれば、昇圧トランス3の出力が直接的に電気刺激信号として出力されるのであれば、昇圧トランス3の時間当りの出力エネルギーは比較的大きくなければならないが、第1図の本考案の場合、その単位時間当りの出力エネルギーが比較的小さくても、電気刺激信号として必要なエネルギーを時間経過で出力コンデンサ5に蓄えることができる.しかも、出力コンデンサ5の放電時にはドライバ回路2を駆動停止にする.その結果、電池の消耗する割合が少ないものとなる.

第3図は本考案の他実施例の要部を表わす回路図であり、第1図と同一符号はその部分に対応した部分を示す.

第3図の実施例は、スイツチング回路6がオフの時間中にドライバ回路2を間欠的に駆動させて昇圧トランス3の出力を出力コンデンサ5に充電した後、スイツチング回路6がオンとなつたとき、出力コンデンサ5の充電電荷を放電する場合である.この場合、調整回路17としては、例えば入力端子8に加わる低周波パルスの立下り毎にカウンタ10をリセツトし、このカウンタ10によつて発振回路1の発振回数が予め定めた回数になつたことを検出する毎に発振回路1の発振を瞬時停止させると共に、この停止時間を調整可能なものを用いる。また、第1図の実施例に準じてダイオード4、出力端子9を設けているので、出力コンデンサ5を充電する以外の回路動作は第1図の動作説明と同様である.

上述した第3図各部分の波形の概要をタイムチヤートで示すと、第4図a~eの通りとなり、第4図aは時間t-電圧Vinで表わした低周波パルスの波形、第4図bは時間t-電圧VLordで表わした電気刺激信号の波形、第4図cは時間t-電圧Vcで表わした出力コンデンサの充放電特性曲線、第4図dは時間t-電圧Vcontで表わした調整回路の指令信号の波形、第4図eは時間t-電圧Vcで表わした発振回路の出力波形、第4図fは時間t-電圧Iで表わした昇圧トランスへ供給する電流の波形である.

前述の如く、第3図の実施例の場合、第1図の実施例の場合に準じてスイツチング回路6がオフの時間中に出力コンデンサ5が充電されるように構成しているので、電池の消耗する割合が少ないものである。しかも、調整回路17によつてドライバ回路2を間欠駆動させて出力コンデンサ5を充電しているので、ドライバ回路2の駆動回数というデイジタル量で出力コンデンサ5の端子電圧をステツプ上昇させることになり、マイクロコンピユータ等を使用する場合に通している.なお、出力コンデンサ5の端子電圧を連続上昇させるように調整回路17を構成することもできる.

第5図は本考案の他実施例の要部を表わす回路図であり、第1図と同一符号はその部分に対応した部分を示す.

第5図の実施例は、スイツチング回路6がオフの時間中、ドライバ回路2を駆動させると共に、出力コンデンサ5の端子電圧が予め定めた設定値に達したことを調整回路27が検出したとき、調整回路27の指令で発振回路1を発振停止させ又は出力停止にさせてドライバ回路2を駆動停止にする期制を行い、しかる後スイツチング回路6がオンとなつたとき、出力コンデンサ5の充電電荷を放電する場合である.この場合、調整回路27は例えば第6図に示すように比較器71と抵抗R1~R3と可変抵抗R4とを接続して構成し、可変抵抗R4の調整で基準電圧Vthを設定し、この設定した基準電圧Vthよりも、R2/(R1+R2)比の電圧又はR2/(R1+R2)比の電圧に低周波パルスの電圧を加えた電圧が大きいときに出力生じるものを用いる.この出力が調整回路27の指令信号となる.なお、第6図に於いてVcは出力コンデンサ5の端子電圧、Vccは電源電圧、INは入力端子8から低周波パルスが加わる端子、OUTは発振回路1へ指令信号1を加える端子である.また、第1図の実施例に準じてダイオード4、出力端子9を設けているので、出力コンデンサ5を充電する以外の回路動作は第1図の動作説明と同様である.

上述した第5図各部分の波形の概要をタイムチヤートで示すと、第7図a~fの通りとなり、第7図aは時間t-電圧Vinで表わした低周波パルスの波形、第7図bは時間t-電圧VLordで表わした電気刺激信号の波形、第7図eは時間t-電圧Veで表わした出力コンデンサの充放電特性曲線、第7図dは時間t-電圧Vcontで表わした調整回路の指令信号の波形、第7図eは時間t-電圧Vcで表わした発振回路の出力波形、第7図fは時間t-電圧Iで表わした昇圧トランスへ供給する電流の波形である.

前述の如く、第5図の実施例の場合、第1図の実施例の場合に準じてスイツチング回路6がオフの時間中に出力コンデンサ5が充電されるようにしており、更に出力コンデンサ5の端子電圧が設定値に達した時点でドライバ回路2を駆動停止にするものであるから、電池の消耗する割合が極めて少ないものである.

以上説明した本考案の低周波治療器は、発振回路1の出力で駆動させるドライバ回路2と、該ドライバ回路2の駆動により出力する昇圧トランス3と、該昇圧トランス3の出力が充電されるように接続した出力コンデンサ5と、該出力コンデンサ5に昇圧トランス3の出力が低周波パルスのパルス間で充電され且つその充電による電荷が低周波パルスの通電時間幅の間に放電されるようにスイツチングするスイツチング回路6と、ドライバ回路2の駆動時間を規制する調整回路7、17、27とを有しているので、電池からは比較的大きな電流を短時間に供給しなくてもよく、しかもドライバ回路2の駆動停止規制で無駄を極力抑えている。

このようなことから、本考案によれば従来に比較して電池の耐用時間を可及的に長くし得る利点が生じる。更に本考案は、上記のようにコンデンサに電荷を蓄積した後、人体負荷にその電荷を出力として加える回路構成であるから、昇圧トランス及びスイツチング回路の出力トランジスタ等の性能が高性能でなくても、所望の出力を容易に得ることができるなど実用上多大なる効果を奏する.

図面の簡単な説明

第1図は本考案の一実施例の要部を表わす回路図、第2図は第1図各部分の波形の概要を表わすタイムチヤート図、第3図は本考案の他実施例の要部を表わす回路図、第4図は第3図各部分の波形の概要を表わすタイムチヤート図、第5図は本考案の他実施例の要部を表わす回路図、第6図は第5図の調整回路の一例図、第7図は第5図の各部分の波形の概要を表わすタイムチヤート図である。

1は発振回路、2はドライバ回路、3は昇圧トランス、5は出力コンデンサ、6はスイツチング回路、7、17、27は調整回路である.

第3図

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第1図

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第2図

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第6図

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第5図

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第4図

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第7図

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実用新案公報

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